賃貸経営におけるリスクの一つに、入居者が室内で亡くなることによる「事故物件化」があります。事故と聞くと高齢者の孤独死をイメージしがちですが、一般社団法人日本少額短期保険協会の「第6回孤独死現状レポート」によれば、孤独死の約4割が60歳未満の現役世代。高齢者に限らず、どの世代の単身入居においても共通のリスクであることが分かります。いつ起こるとも分からない死亡事故に対して有効な対策はあるでしょうか。

保険で急な出費に備える

万一の備えとして、まず検討できる対策のひとつが「保険」です。死亡事故専用の少額短期保険のほか、昨今では損害保険各社が賃貸経営者に向けた死亡事故発生時用の商品や特約を整備しており、以前よりも保険の選択肢も増えて検討しやすくなっています。

商品によって保険料や補償金額は異なりますが、多くは特殊清掃を要する原状回復の費用や遺品整理費用のほか、事故物件となってしまったことで発生した空室期間の損失や賃料の減額による損失をカバーできます。先述の「孤独死現状レポート」では、1事故あたり平均で残置物処理に約24万円、原状回復に約39万円、賃料減額損で約30万円、合計で90万円以上の費用負担が生じると報告されており、金銭面でのリスク対策がいかに重要か分かります。

設備選びで事故を予防する

事故の起こりにくい部屋をつくることも重要です。突然死の要因として多くを占めるのが、夏場の熱中症と冬場のヒートショック。どちらも予期の難しい事故ですが、部屋の「設備」による一定のリスク低減も可能です。決して特別な設備が必要というわけではなく、代表はエアコンと冷暖房機能付きの浴室乾燥機。それなりにコストはかかりますが、事故対策としてだけでなく、次の募集時の集客力アップにも寄与するアイテムであると考えれば、導入も検討しやすいはずです。

見守りサービスでリスクヘッジ

そもそも、孤独死の発生がそのまま事故物件化につながるとは限りません。事故物件とは、重要事項説明の対象となる「心理的瑕疵」が生じてしまったお部屋を指しますが、死亡事故のすべてが心理的瑕疵とはならないためです。

2021年に国土交通省が発表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、病気や生活の中で生じた不慮の事故を原因とした死は「自然死」であり、それそのものは心理的瑕疵にあたらないこと、特殊清掃や大規模リフォーム等が必要でなかった場合には、原則的に「告知不要」であることが明記されました。つまり、その死に事件性がなく、早期発見によって遺体の腐敗等による物件の汚損を防げたならば、たとえ死亡事故が起きたとしても心理的瑕疵は生じず、事故物件とはならないということです。

となると、重要になるのが入居者の体調不良や万一の事態を早期発見するための工夫です。代表的な対策は「見守りサービス」でしょう。大きくは①室内にカメラやセンサーを設置して入居者を見守る機械検知式、②メールや電話などの連絡に対する入居者の返信をもって安否を把握する本人報告式、③訪問員が定期訪問して状況を把握する対面確認式があります。

サービスによってコストや安否確認の間隔が異なるため、経営計画や入居者の属性に合わせたサービス選択が重要です。なお、自治体ごとに単身高齢者向けの見守りサービスを提供しているケースもあるため、高齢者を入居させる場合には公的な見守りサービスとの接続も検討しましょう。

事故物件化に伴う多大な損失は賃貸経営の大きなリスクですが、一定確率で起こってしまう以上、完全に回避することは不可能です。なればこそ、事故を必要以上に恐れるのではなくしっかりと対策をし、入居者にとっても賃貸経営者にとっても安心・安全な運営を目指しましょう。