過去最高値を更新するガソリン価格に、ロシアのウクライナ侵攻から高騰の続く電気代。賃貸経営者の皆さまも、エネルギーコストの上昇を実感されていることかと思います。

しかし、負担増に頭を抱えているのは入居者も同じです。加えて先日は、経済産業省が「LPガス会社による賃貸経営者への設備無償貸与」について規制方針を示したことも報道され、入居者はガス料金に対しても厳しい視線。少しでも光熱費の安い物件に住みたい…というニーズ増加の中、改めて注目を集めているのが「自家消費型太陽光発電」です。

トレンドは売電型から自家消費型へ

これまで賃貸住宅の太陽光発電といえば、共用部の電気代削減と余剰電力の売却による収入増を目的とした「売電型」が主流でした。しかし、最近では電力買取価格も落ち込んでいる(2023年・住宅用10kW未満は16円/kWh)うえ、2020年のFIT制度変更により全量売電の難易度が上昇。発電能力が50kWを下回る小規模施設では、かつてのような高利回りを期待できない状況となっていました。

そこで脚光を浴びたのが「自家消費型」の太陽光発電です。自家消費型はその名のとおり、作った電気を売却せずに自分で使ってしまう方式であり、売電による収入はほとんど期待できません。しかし、発電電力を入居者に還元すれば、このご時世にぴったりな「電気代の節約できる物件」になるのです。売電収入の代わりに太陽光発電で集客し、賃料アップと空室短縮で投資効率を高める発想です。

「自家消費型」のメリットと注意点

政府発表のエネルギー白書によれば、日本の2023年1月の電気料金は3年前から3割上昇。加えて、大手電力会社7社は6月から家庭向けの電気代を引き上げており、自家消費型による「電気代の節約できる物件」は大きな注目を集めそうです。また、近年はSDGsの概念の浸透とともに、環境問題への貢献に魅力を感じる入居者も増えています。こうした強みを上手にアピールできれば、相場より高い賃料での募集や、多少不利な立地の募集でも、十分な集客が期待できるでしょう。

一方で、自家消費型を選択するにあたっては注意点も。まずは、投資費用の回収の目途が立てにくいこと。売電型であれば発電量と買取価格から回収期間を予測できますが、自家消費型は賃料上昇分や空室短縮による収益増をいくらに見積もるかで計算結果が変わってしまいます。加えて自家消費型は、各戸に送電するぶん売電型より設備費・工事費がかかるため、事前の細かな収支比較シミュレーションが不可欠です。

もう一つは、屋根の面積(=発電能力)と居室数のバランスです。仮に月1万円分の発電ができる屋根があったとして、これを2戸でシェアすれば各戸5,000円の節約となりますが、全10戸の物件では各戸1,000円の節約にしかなりません。発電量に合わせて間取りプランを調整したり、発電電力の供給を客付けに不安のある1階のみに限定するなど、「魅力的な電気代節約」を提供するための工夫が必要です。

各自治体の補助金もチェック

自家消費型太陽光発電のハードルは、なんといってもコスト。ですが、設置に対して補助金を整備する自治体も増えています。補助額は、例えば発電設備1kwあたり5万円、蓄電池設置にかかる工事費用の1/3など、自治体によって異なります。国による太陽光発電の補助金制度が廃止されている現在においては、投資額を抑えるための重要な手段です。

自家消費型太陽光発電と蓄電池をセットで導入すれば、停電時でも電気を使うことができ「災害に強い物件」というアピールも可能に。蓄電池導入の追加コストが必要となりますが、太陽光発電つき物件の建築を検討する際は、売電型・自家消費型の比較、物件所在地の自治体の補助金確認、入居者へのウリなどを総合的に情報収集したうえで判断しましょう。