東京都が2025年4月をめどに、戸建て住宅を含む新築建物に対して太陽光パネルの設置を義務化する方針を固めたことが話題です。再生可能エネルギー設備の設置義務化は、既に京都や群馬の一部自治体で実施されていますが、一定規模以上の建築物が対象であり、規模の小さい戸建て住宅までも対象としたのは全国初。当然、一般的なアパートも義務化の対象となります。
同様の施策は神奈川県川崎市でも検討が進められており、実現すれば他の自治体が追随する可能性も。太陽光発電が賃貸経営に与える影響を知っておきましょう。
省エネ住宅増加 太陽光パネル設置が当たり前に?
太陽光パネル設置義務化に掲げられている目的は「脱炭素化」です。東京都は2030年までの「カーボンハーフ(対2000年比で二酸化炭素排出量50%削減)」を表明しており、全体の3割を占めるとされる家庭部門の二酸化炭素排出量を、太陽光発電と省エネ住宅の普及によって削減するねらいです。
その大元は、政府の「カーボンニュートラル」宣言です。2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、というこの目標を叶えるべく、環境省・経済産業省も「ZEH」の補助金制度を整備。ZEH(net ZeroEnergy House)とは、高断熱・高気密な住宅設備と太陽光発電を組み合わせた省エネ住宅のことで、こちらでも太陽光パネルの設置が推進されることになります。
そうなると、今後ますます増えていくのが太陽光パネルの整備された賃貸物件です。小池都知事は「屋根が発電するのが当たり前という機運を醸成したい」とも。仮に太陽光発電のできる住宅が“当たり前”になれば、賃貸市場も大きく様変わりすることが予想されます。
賃貸経営に太陽光発電のメリットを活用
では、アパート等に太陽光パネルを設置した場合、賃貸経営にはどのような影響があるでしょうか。主なメリットは次の4つです。
電気代負担が安くなる
第一のメリットは電気代の削減です。太陽光発電で共用部分の電気を賄えば、運営費の低減からキャッシュフローの改善が期待できます。また、施工コストは膨らみますが、入居者にも電力を供給すれば、光熱費を節約できる物件としてアピールが可能に。入居率アップや長期入居が期待できます。
売電収入が得られる
電力会社に余剰電気を売ることによる売電収入こそ最大のメリットと考える方も多いでしょう。仮に5kWの太陽光パネルを設置し、全発電の65%が余剰分として売電されるとすると、年間の売電収入は6 5 , 0 0 0 円程度( 2 0 2 2 年度、1kW=17円で算出)。発電量はパネルの種類や物件の日当たり、地域の日照時間によって変化しますが、初期コストとのバランス次第では投資的な魅力が生まれます。買取額は固定価格買取制度の利用で、10kW未満なら10年間、10kW以上なら20年間固定できます。
災害時の非常用電源になる
非常時の停電対策になる点も魅力です。晴天の昼間など、パネルが発電できる状況であれば「自立運転機能」によってある程度の電気供給が可能。さすがにアパート全室・全家電を動かすことはできませんが、被災時の炊き出しや通信機器の充電等に役立てられます。なお、電気を溜めておける「蓄電池」をセットで設置すれば、昼夜を問わず非常用電源として活用可能。入居者の安心感・訴求力アップに役立つでしょう。
地球環境保護に貢献できる
経営面だけでなく、本来の目的である環境保護に貢献できるのもメリットです。温室効果ガスの削減効果はもちろん、自家発電できる賃貸物件が全国的に増えれば、環境負荷の大きい火力発電等への依存も減らせるはずです。
設置後はメンテナンスが必要不可欠
とはいえ、太陽光パネルの設置には注意すべき点もあります。第一に、太陽光パネルの分だけ建設コストが上がること。節電+売電の効果によって、発電機器の費用は10年程度で回収できるといわれますが、数百万円のコスト増となれば利回りにも影響が出ます。また、固定価格買取期間が終了した後の売電収入は大きく減少するため、初期コストと発電量とが見合うかどうか、計画期間内に費用を回収できるかを慎重に検討する必要があるでしょう。
第二に、太陽光発電機器のランニングコストです。メンテフリーとも言われる太陽光パネルですが、最低でも次の項目は実施するものと考えましょう(※)。
保守点検
固定価格買取制度を利用する場合には、50kW未満の小規模な発電であっても点検が義務化されています。点検は運用開始から1年目、その後は最低でも4年に1回の実施が推奨されます。
清掃
鳥のフンなど、自然に落ちにくい汚れがパネルに付着すると発電性能が低下することも。高所作業のため業者に発注しましょう。
パワーコンディショナー交換
発電した電気を変換・調節する機器です。寿命は10~15年程度、交換費用は工事費込みで30万円程度です。
※これらのメンテナンスを保証範囲に含むメーカー保証もあります。
今回の都の案では、延べ床面積2000㎡以上の建築物は建築主に、それ未満であれば大手住宅メーカー(約50社見込み)に太陽光パネルの設置義務が課されます。つまり、小中規模の物件であれば、賃貸経営者は設置義務のない住宅メーカーと契約し、太陽光パネルを設置しないアパートを建てる、という選択も可能ということです。
経営に貢献しないと判断できるなら、無理に発電機器を設置する必要はありませんが、昨今は日本発の次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」にも注目が集まります。来年はいっそう太陽光発電関連の話題が盛り上がりそうですね。