近年、不動産業界で注目を集める「建物の長寿命化」。とりわけ公共施設やインフラ施設では、安易に建て替えずに”建物100年活用”を目指す改修が盛んです。また今年度の税制改正では、長寿命化工事を実施したマンションの固定資産税を減額する「マンション長寿命化促進税制」も誕生。建物を長く健康に保ち、資産価値を維持改善しようという機運が全国的に高まっています。

賃貸業界にも維持保全の波。管理会社向け新資格創設

建物の健康保持の波は、すでに賃貸住宅業界にも広がりつつあります。今年11月には、新たに日本賃貸住宅管理協会による賃貸管理会社向け資格制度「賃貸住宅メンテナンス主任者認定制度」がスタート。所有者や入居者からの建物・設備に関する問い合わせに対して適切な初診診断(一次対応)ができる、建物メンテナンス全般の知識を有した人材の育成を目標としています。専門家の増加を通じて建物・設備が長く使えるようになることは、安定経営の追い風ともなりそうです。

一方で、建物メンテナンスの資格制度が必要となる背景には、残念ながら適切なメンテナンスを受けてきた賃貸住宅が全国的にまだまだ少数派である、という現実も…。だからこそ所有物件でトラブルが起こる前に、建物を健全に維持する意識を高めましょう。

各地で豪雨被害 いま最優先は「雨漏り対策」

建物を長持ちさせることを考えた時、優先的に実施したいのが「雨漏り対策」です。

このところ各地で大雨被害が多発していますが、通常の雨風に加えて、横殴りの雨、下から吹き上げる雨といった強雨が頻発すると、雨漏り被害は一層起こりやすくなります。もし建物内部にまで雨水が浸入すれば、木材の腐食や鉄筋のサビなど建物の躯体そのものがダメージを負い、将来の賃貸経営に多大な損失を与えかねません。雨漏り被害を未然に防ぐためにも、次の項目には日ごろから注意を払いたいものです。

重点確認箇所雨漏りの原因対策
屋根材割れ、欠け、ズレ補修、交換、塗装塗り替え
屋根板金浮き、ズレ、釘のゆるみ板金の交換・修繕
屋上防水防水層の経年劣化塗装塗り替え
バルコニー防水防水層の経年劣化塗装塗り替え
外壁材ひび割れ、浮き補修、塗装塗り替え、交換
外壁コーキング痩せ、ひび割れ、剥がれ補修、コーキング打ち替え
窓サッシサッシ周りの外壁のひび割れ
コーキングの劣化
ひび割れ補修
コーキング打ち替え
雨樋・排水口枯れ葉などの詰まり、破損清掃、補修、交換

重点確認① 屋根材・屋根板金

傾斜のある勾配屋根で注意したいのは、スレートなどの屋根材と、屋根材の接合部をカバーする屋根板金の2か所です。風雨や経年劣化によって割れ、欠け、ズレといった不具合が生じると、その隙間から雨水が浸入し、雨漏りの原因となってしまいます。

加えて、屋根材をコーティングしている屋根塗装の劣化も要注意。塗装部分が防水機能を失うと、屋根材自体が水を含むようになり、じわじわと下面に浸水していく恐れがあります。こうしたトラブルを防ぐには、屋根全体の定期的な点検が欠かせません。可能なら7~10年に一度は専門業者による点検を実施し、不具合の早期発見に努めましょう。

重点確認② 屋上防水

陸屋根の場合には、屋上防水の劣化、ひび割れ、コーキングの劣化などが雨漏りの原因となります。陸屋根は平面のため水が溜まりやすく、その状態で防水が切れると途端に雨漏りの確率が跳ね上がります。屋上防水のやり替えは塗膜防水やシート防水なら10~15年、アスファルト防水なら15~25年に一度の間隔が一般的ですが、必要に応じて早めの実施をお勧めします。

重点確認③ 外壁材・外壁コーキング

雨水は防水性を失った外壁からも浸入します。外壁材自体のひび割れ、浮き、欠けといった症状に注意が必要なことはもちろんですが、モルタルやサイディングなどの外壁材を触った際、手に白い粉がつく「チョーキング現象」は重要サイン。これが見られるということは、外壁表面の防水塗装が劣化して粉状になってしまっているということであり、すでに浸水が始まっている恐れもあるため見逃せません。

また、外壁材の継ぎ目部分のコーキングの劣化も、雨水が壁の内部に入り込む原因のひとつ。コスト的には、外壁塗装とセットで補修するのが理想ですが、劣化状況によっては先行しての部分補修を検討してください。

重点確認④ 各戸の床・開口部

雨漏りリスクは各戸の開口部やバルコニーにも隠れています。中でも多いのが、窓サッシと外壁との境界部分からの浸水。外壁のひび割れや、サッシと外壁との間のコーキングの劣化は小まめにチェックしましょう。また、バルコニー・ベランダの床面も防水層の維持が欠かせません。屋根・屋上の防水工事や外壁塗装をする際は、こちらもの塗り替えも併せて行ないたいものです。

そのほか、雨樋・排水口の排水不良が雨漏りにつながるケースもあります。落ち葉や泥が詰まらないよう、定期的な点検・清掃が必要です。

「長期修繕計画」と「資金対策」で適切なメンテナンスを実現

このようにさまざまな予防策が必要となる雨漏り対策ですが、屋上防水や外壁塗装といった大がかりなメンテナンスとなると費用もかかるため、できるだけ工事を先延ばしにしたい、と考える賃貸経営者も少なくありません。しかし、経年劣化を原因とする雨漏りは原則として火災保険が適用されず、実際に起こってしまってからの対応となると、応急処置費や入居者家財の賠償などの余計な費用も発生し、予防処置よりもさらにコストが膨らんでしまいます。

そこで重要となるのが、万一の際でも困らないよう、あらかじめ修繕時期を決めておく「長期修繕計画」の作成と、大規模修繕に備えた「資金対策」です。事前計画があれば、修繕の実施タイミングの調整や経営状況に合わせた資金づくりも慌てることなく実行することがきます。

方法メリット注意点
家賃から積み立ていつでも始められる経費化できない
自分で管理する必要がある
リフォームローン必要なときに必要な額だけ
借りられる
希望額が借りられる保証はない
金利を払う必要がある
賃貸住宅修繕共済掛金を経費化できる
火災・落雷等も補償
修繕補償では対象が
屋根・外壁・軒裏に限られる
システム手数料が発生する

今年も各地で大雨が降り、梅雨時期の豪雨被害に対しては全国一律で「激甚災害」の指定がされるなど、雨への備えは来年以降も気が抜けません。雨漏りに悩まされる前に修繕計画を立て、先手先手の賃貸経営を進めていきましょう。