賃貸市場では今、ファミリー向け物件や戸建て賃貸に大きな注目が集まっています。コロナ禍では市場の急変によって多くの単身向け物件が苦境に立たされた一方、ファミリー向け物件は騒動の最中から好調に稼働し、今なお高い入居ニーズを保持。先の読めない昨今の経済状況において、その安定感は非常に魅力的です。

住宅価格高騰・郊外志向がファミリーニーズを後押し

ファミリー向け物件に熱視線が集まる最大の理由は、全国的な高稼働と賃料の上昇です。アットホーム株式会社の発表する「2023年6月 全国主要都市(首都圏、札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡)の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向」によれば、ファミリー向けマンションの平均募集家賃は全エリアにおいて、今年の1月から6ヶ月連続で前年同月を上回ったとのこと。ここ1年半の平均家賃指数を見ても、全国的な募集賃料の高まりが見て取れます。


人気の背景のひとつは、住宅購入ハードルの上昇です。2016年頃から顕著になった建築業界の人件費高騰に、コロナ禍を契機とした物価高・建築資材の高騰が重なり、近年の住宅販売価格は右肩上がり。国土交通省の公表する2023年4月の不動産価格指数・住宅総合の値は2010年の約1.35倍と、従来であれば住宅を購入するタイミングのファミリー層が賃貸物件に流れ込んできているものと考えられます。

また、コロナ禍でテレワークが浸透したことで「郊外志向」が強まったことも一因に。ファミリー向け物件の供給の少ない郊外エリアに、安くて広い間取りを求める需要が生まれた結果、既存ファミリー物件への入居申し込みが集中。賃料上昇へとつながっているのです。


ファミリーに選ばれるための条件を押さえる

今や“貸し手優位”な状況のファミリー向け物件ですが、もちろんどんな物件でも決まる・賃料が上がる、というわけではありません。選ばれる物件となるためには適切な空室対策の実施と、魅力ある住環境の提供が不可欠です。

追いだき機能

ファミリー向け物件になくてはならない設備のひとつが、お風呂の「追いだき機能」。全国賃貸住宅新聞が毎年発表する「この設備がなければ入居が決まらない」ランキングでも上位常連の設備です。導入工事は給湯器の交換・配管工事を含めて30~50万円程度から。


インターネット無料

近年は在宅ワークやオンライン授業の機会が増えただけでなく、スマートフォン連動のキッチン家電等も普及し、ファミリー向け物件でも「インターネット無料」の人気は増すばかり。単身向けに比べて戸あたりの利用人数も多くなるため、「無料だけど遅くて使えない」という不満が出ないよう、導入時は十分な回線能力(速度)を確保する必要があります。


システムキッチン

ファミリー層の注目ポイントといえば、水回りの使いやすさ。中でも「システムキッチン」は不動の人気を誇ります。デザイン性の高い製品を選べば、部屋のイメージアップにも効果あり。設置費用はグレードや大きさによって幅があり、50~150万円ほどが見込まれます。


希少性が際立つ戸建て賃貸も活況

ファミリー向け物件の人気と共に、いま注目が高まっているのが「戸建て賃貸」の経営です。不動産投資情報サイト「健美家」が会員向けに実施している「不動産投資に関する意識調査」では、ここ数年、“実際に購入した物件”の質問に対して“戸建て賃貸”の回答が最多となる結果が続いています。また、最近では大手ハウスメーカーによる戸建て賃貸事業への参入や、賃貸戸建て住宅を投資対象とするファンドの組成も話題に。戸建て賃貸の魅力は、アパート・マンションにはない独自のメリットが多数ある点でしょう。

戸建て賃貸のメリット

  • 需要に対して供給数が少なく、入居が決まりやすい(希少性)
  • 希少性から賃料を高めに設定できる/不利な立地でも決まる
  • 入居期間が長くなる傾向にあり、長期的な家賃収入が見込める
  • 清掃等を要する共用部がほぼなく、運営コストを抑えられる
  • 騒音問題など集合住宅のような入居者トラブルが起こらない
  • 集合住宅と比べて購入コストが低いケースが多い

戸建て賃貸の注意点

  • 集合住宅と比べて投資効率が低下することが多い
  • 1回あたりの原状回復費用が高くなることが多い
  • 長期間入居の傾向から、建て替え等を進めにくい( 立退き料リスク)


同じ広さの土地であれば、単身向け住居をできるだけ多く配置した集合住宅を建てるほうが、投資効率は当然に高まります。しかし、管理の手間暇や運営費の少なさ、長期入居による経営の安定性、投資を始めるハードルの低さなどを鑑みれば、あえて戸建て賃貸を経営するというのも、十分に検討の余地のある選択肢です。

ただし、昨今は空き家活用の推進をはじめ、中古住宅の市場流通を促進させる国の取り組みも活発化しています。また、住宅価格の高騰もこのまま永続するとは限りません。戸建て賃貸にも、供給量の増加によって「希少性」が失われたり、住宅価格の低下によって賃貸ニーズが落ち込むといったリスクがあることは押さえておきましょう。

とはいえ、ファミリー向け物件・戸建て賃貸市場の盛り上がりはもうしばらく続きそうです。立地や入居者ニーズを改めて確認のうえ、”次の一手”にこれらの候補を加えてみてはいかがでしょうか。