年が明ければ、賃貸業界のオンシーズンとともに「確定申告」の季節がやってきます。賃貸経営者にとって、確定申告は節税対策の第一歩。税理士に依頼している方も事業的規模の方も、改めて申告の基本知識を確認しておきましょう。

コロナ等で延長可能も、申告は期限内に!

確定申告とは、1年間の収入から納める所得税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きです。2023年分の申告期間は、新型コロナウイルスの影響等を理由とした個別の期限延長申請こそ認められているものの、原則として2024年2月16日(金)から3月15日(金)まで。申告期限に遅れると、延滞税や無申告加算税といったペナルティが課されるため注意が必要です。

会社で源泉徴収や年末調整を受けるサラリーマン大家であっても、賃料収入が20万円を超える場合は確定申告が必要です。不動産所得は給与所得等と損益通算したうえで申告できる総合課税制度の対象のため、その年の経営状況によっては課税所得の圧縮が叶い、節税効果を得られる可能性もあります。

確定申告の方法は、簡易な「白色申告」と、複式簿記での帳簿作成等を要する「青色申告」の2種類が用意されており、自身の経営状況や目的に合わせて選択できます。

青色申告なら最大65万円の特別控除あり

白色申告は、特別な手続きを要しない通常の申告方法です。帳簿は簡易簿記での作成で済み、提出書類も確定申告書と収支内訳書のみと、初心者でも無理なく申告できる手軽さがあります。反面、白色申告はあくまで「通常の方法」であるため特別な節税メリットはありません。

対して青色申告は、「青色申告承認申請書」を提出して初めて認められる申告方式です。帳簿作成が複雑になる・提出書類が増える等の制約はありますが、最低10万円・最高65万円の”青色申告特別控除”が受けられるなど、正確な会計・申告をする対価としていくつかの節税メリットが用意されています。

所得から65万円を控除できるということは、所得税率+住民税率が30%の方の場合、65万円×30%=19.5万円の税金を減らせるということであり、賃貸経営を有利に進めるための大きな力となります。

青色申告承認申請書を税務署に提出します。その年の3月15日まで(1月16日以降に開業した場合は開業日から2ヶ月以内)の申請で、翌年の確定申告から青色申告が可能となります。

青色申告特別控除の額は、満たした要件によって65万円/55万円/10万円のいずれかに決まります。①~③を満たせば55万円、①~④まで全て満たせば65万円の控除となり、そもそも①を満たせない場合には10万円の控除となります。

①賃貸経営が事業的規模(物件5棟以上または10室以上)であること
▶事業的規模に満たない場合は10万円控除
②複式簿記(勘定の借方と貸方とを対にして記入する方法)での帳簿作成
③貸借対照表、損益計算書等の提出
④e-Tax(インターネット申告システム)による電子申告または優良な電子帳簿の保存

生計を一とする配偶者等の給与を全額経費にして節税

青色申告のもうひとつの節税特典が「家族への給与の全額経費化」です。配偶者や親族が“専従者”として業務に携わっている場合、白色申告も“事業専従者控除”という特例によって給与を経費化できますが、控除額には配偶者86万円まで・その他の親族50万円までと上限が定められています。一方、青色申告では給与の全額を経費とできます(※労務の対価として妥当な金額に限る)。特定の親族に対して“給与”という形で資産を移転しつつ、給与の全額控除によって課税所得の圧縮もできるのです。

青色申告で専従者給与を控除するには、青色申告の承認申請と同様、該当年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。

事業赤字の最長3年間の繰越・繰戻

最長3年間にわたって赤字を調整できる点も、青色申告の大きなメリットです。例えば、2023年に300万円の赤字となり、2024~2026年に各年100万円の黒字となった場合、白色申告では2024年以降の黒字(利益)に対して税金が発生するところ、青色申告なら2023年の赤字を100万円ずつ繰り越すことで、2024年から3年間の所得金額をそれぞれ0円に減らす(≒税金の発生を抑える)ことができます。

そのほか、白色申告では複数年度にわたって減価償却が必要となる資産であっても、30万円未満であれば購入したその年に一括で経費計上できたり、プライベートと事業とで共用するものの費用(例:賃借している自宅兼事務所の家賃や光熱費)を案分して経費計上できたりと、青色申告は経費の面でも利点があります。前述の赤字の繰越・繰戻と併用すれば、毎年の税金の支払い額をコントロールしやすくなるでしょう。

近年は会計ソフトの低価格化・内容の充実化に伴い、青色申告のハードルもずいぶん下がりました。難しそう…という理由で避けてきた方は、この機会に青色申告による税金対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。

白色申告と青色申告の違い

※優良な電子帳簿保存をしている場合は、郵送・税務署へ持込での提出も可

インボイス制度や改正電子帳簿保存法などの変更点に注意

2023年度の確定申告は、手続き自体に大きな変更はありません。しかし、2023年10月から「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が始まり、これに合わせて適格請求書発行事業者となった方は、消費税の申告が必要となるため注意が必要です。

また、2024年1月1日からは、経過措置期間の終了した「改正電子帳簿保存法」が本格的にスタート。電子取引をした際の領収書や請求書は、紙ではなくデータで、記録の改ざん等が行なわれないよう対策を講じたうえで保存することが義務づけられます。電子帳簿保存は65万円の青色申告特別控除の要件にも関わるため、しっかりと対応していきましょう。