新年あけましておめでとうございます。昨年はついにコロナ禍も明け、不動産業界も新しい動きが数多く見られた1年でした。2024年はどのような変化が起こるのか? 賃貸経営で注目したいキーワードを解説しましょう。

賃貸ニーズにも影響大「省エネ性能表示制度」

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、さまざまな省エネ化プロジェクトが急速に進展しています。賃貸業界でも省エネ住宅「ZEH」の建築数が拡大。さらに、今年4月からは建築物の「省エネ性能表示制度」がスタートします。

これは建築物を取引する際に、図のような省エネ性能ラベルを表示する制度で、特に4月以降に建築確認申請が行なわれる新築物件については、売買・賃貸する事業者に表示の努力義務が課されることになります。

▲国土交通省 省エネ性能表示制度ガイドラインより

これに合わせて、大手不動産ポータルサイトも性能表示への対応を発表。住み心地やランニングコストに直結する省エネ性能が部屋探しの重要な判断基準となり、空室対策にもなることが期待されます。幸い、国の大型補助金事業「住宅省エネキャンペーン」は2024年も継続の見込み。中でも、補助率の高さ・性能向上の手軽さから人気を博した「先進的窓リノベ事業」は引き続き注目です。早めに情報収集のうえ物件の省エネ性能アップをご検討ください。

相続対策はお早めに「生前贈与」新ルール

今年は相続の新制度も次々と実施されます。まずは、既に1月から開始している「生前贈与加算」「相続時精算課税制度」の新ルール。生前贈与された財産は、基本的に“贈与”として課税処理されるものの、一定期間中の贈与は“相続”の財産に持ち戻され(生前贈与加算)、相続税が課税されます。これまでその持ち戻し期間は「相続開始前3年以内」でしたが、これが法改正で「7年以内」へと拡大。年間110万円の基礎控除(非課税枠)を使って暦年贈与を行なっている方にも影響の大きい変更です。

一方、生前贈与時の課税処理を相続時に回せるようになる相続時精算課税制度では、贈与税・相続税ともに非課税となる年間110万円の基礎控除が創設されて節税メリットが生まれたほか、確定申告の手間が軽減されるなど利便性が改善。活用しやすくなりました。

空き家や相続土地の「放置」にメス

新ルールのもうひとつは、4月から始まる「相続登記の義務化」です。これは相続を繰り返すうちに権利者が増えすぎてしまったり、逆に所有者が分からなくなってしまった不動産の増加が深刻化しているためで、不動産を取得した相続人には所有権の取得を知った日から3年以内の登記申請が義務づけられます。違反者には10万円以下の過料の罰則も。扱いづらい不動産を相続した場合も放置せず、昨年スタートした相続土地国庫帰属制度の利用も視野に入れながら、きちんと登記以降の手続きを進めたいものです。

なお、昨年12月には改正空き家特措法も施行され、改善見込みのない「管理不全空き家」は、固定資産税が1/6になる住宅用地の特例を解除されるというルールも走り始めています。今年は、低未利用の不動産にこそ着目すべき1年かもしれません。

円安、物価高、2024年問題で「経営コスト増」

2023年は海外情勢の悪化等に伴う円安や原油高の拡大により、物価高が大幅に進みました。また、世界の金利上昇トレンドを静観する構えだった日銀も、いよいよ長期金利の変動幅拡大を容認。実際に“フラット35”の金利も上昇し、不動産投資ローンへの波及も懸念されています。

加えて建設業界・物流業界は、4月からの労働時間制限によって人員不足が発生する「2024年問題」を抱えており、輸送コスト増による資材高騰、工事の長期化や建設費の増大が予想されています。こうなると避けられないのは、新築はもちろん、修繕やリノベーション等のコスト増。支出と収入のバランス維持にいっそう注意を傾ける必要があります。

資産価値も入居者も守る「建物メンテナンス」

建物の老朽化による予期せぬ支出を防ぐのが、定期的なメンテナンスです。建物の長寿命化が社会のトレンドとなる一方、不動産市場では、新築物件の価格高騰を背景に中古物件の人気が上昇。健康に保たれた物件は、築古であっても高値で取引されるなど、資産価値を維持するうえでもメンテナンスの重要性が高まっています。

また、相次ぐ自然災害への対策としてもメンテナンスは欠かせません。九州北部豪雨や秋田県大雨災害など、2023年も全国で豪雨災害が発生しており、建物の維持保全によって入居者の安心・安全な暮らしを守りたいものです。なお、昨年は「賃貸住宅メンテナンス主任者」という賃貸管理の新資格が誕生。賃貸経営者にとっては、建物維持について相談のできる心強い味方が増えそうです。

観光政策も後押し「インバウンド」需要回復

昨年はインバウンド需要回復の兆しが見えた年でもありました。日本政府観光局の発表によれば、2023年10月の訪日外国人数は251万人超。コロナ禍前(2019年同月)の数字をついに超えた形です。

昨年3月には「第4次観光立国推進基本計画」が閣議決定され、全国100地域の観光地化・インバウンド消費5兆円・国内旅行消費20兆円等の達成目標が掲げられています。観光地が盛り返せば、宿泊・飲食業の就労ニーズに伴って居住ニーズも高まることは必至。また、昨年の民泊参入条件の緩和を機に、インバウンド需要を直接捕まえにいく手もあります。

なお、観光に比例して外国人の移住も増加しており、昨年6月末時点の在留外国人(永住者・中長期在留者)数は約322万人と、過去最高を記録。どちらの面からも、インバウンド需要の活かし方が注目される年となりそうです。