カーボンニュートラルの実現に向けて、日本の住宅分野でもZEH(ネットゼロ・エネルギー・ハウス)や長期優良住宅、低炭素住宅の普及が進むなど、断熱性能を高める動きが加速しています。6月には、SUUMOリサーチセンターが、2024年の住まいのトレンドワードを《断熱新時代》と発表したことも話題に。賃貸経営者にとって、改めて所有物件の断熱性能を見直すべき時が来ています。


法改正に伴い断熱性能差が拡大

今や住まいの断熱性能向上は、世界的なトレンドのひとつ。EU諸国では早くから共通基準を設けて住宅の断熱・省エネ性能を厳しく運用しているほか、イギリスは2020年から省エネ性能の低すぎる住宅の賃貸を禁止しているほどです。これに追随する日本の住宅業界も、断熱性能の向上は待ったなしの状況となっており、近年は省エネ法や品確法の改正によって住宅の断熱性能を表す「断熱等級」が刷新され、満たすべき性能基準が引き上げに。

2025年からは、集合住宅を含む全ての新築住宅で次世代省エネ基準とされる《等級4》以上を満たすことが必須条件となり、さらに2030年以降は、より厳しい《等級5(ZEH基準)》以上が最低ラインとなることが決まっているのです。

こうなると、従来の断熱性能基準で建てられた建物は、快適さでも光熱費でも新基準の新築物件に大きく水をあけられてしまいます。時間の経過と共に人々が高断熱の住環境に慣れてくれば、従来物件がますます厳しい状況にさらされることは明白です。


断熱等性能等級の一覧


調査結果にも表れた断熱ニーズの高まり

一方で、断熱性能に対する消費者側のニーズも高まっています。「2023年 注文住宅動向・トレンド調査」(SUUMOリサーチセンター)によれば、2021年時点における《注文住宅の建築者が重視した条件》は、1位「耐震」、2位「間取り」、3位「断熱」でした。

しかし、翌2022年になると順位が逆転し「断熱」が2位に。2023年には1位の耐震に迫る伸びで、今や住まいの断熱性能は、住宅購入層には間取りをも上回る関心事なのです。また、前述のトレンドワード《断熱新時代》が選ばれた背景にも、光熱費削減への期待や、熱中症やヒートショック等の予防への期待など、健康で快適な住環境に向ける人々の関心の高さが表れています。

加えて今年4月からは、入居者が賃貸住宅の断熱性能を手軽に確認できる「省エネ性能表示制度」も始まりました。現時点では表示義務対象の物件が少数のため変化を感じませんが、制度の浸透が進めば部屋探しへの影響度は確実に大きくなり、断熱性能が新たな住まい探しの指針となると考えられます。


手軽な断熱リフォームで性能向上

今後、続々と建築される高断熱住宅。従来物件が対抗するには何らかの断熱改修を加えるしかありませんが、改修は方法も工事規模もさまざまです。何から手をつければいいか分からない方や、まずは手堅く始めたいという方は、次のような小規模・短工期・低コストの工事から検討してみましょう。

内窓の設置

今ある窓の内側にもう一枚の窓を取りつけ、二重窓とする工事です。内窓を新設することで外窓と内窓の間に空気層が生まれ、魔法瓶のように熱が伝わりにくくなり、断熱効果や冷暖房効率が高まります。また、気密性の改善により防音対策や結露の予防につながる嬉しい効果も。

腰高窓など小規模な工事なら1箇所あたり4万円程度から、掃き出し窓なら10万円程度から実施できます(ガラスの種類や窓の形状により異なる)。窓ひとつにつき1時間程度の施工で済む工法もあり、資材調達などが順調なら急ぎの原状回復工事にも追加可能です。

断熱材による天井断熱

天井裏に断熱材を設置することで断熱性能を高める工事です。グラスウール断熱材等を敷き詰める敷き込み工法と、発泡ウレタン等の充填剤を吹き付ける吹き込み工法が一般的。費用は1㎡あたり4~8千円、工期は1週間程度が目安です。

ただし、天井裏に作業スペースがない・天井材の強度が足りない等の場合は、天井を剥がす等の追加費用がかかります。安価に済ませたい場合には、室内側の天井に断熱材を貼り上げる方法もありますが、見た目の問題を検討する必要があります。

断熱改修パネルの設置

最近は、室内の既存の壁に断熱改修パネルを貼るだけの手軽な方法も登場しています。木造住宅の壁だけでなくRC造のコンクリート面にも施工でき、ひと部屋からの部分施工も可能。商品によってはパネルの厚みが30mm以下と薄く、設置による室内スペースへの圧迫も抑えられます。パネルの本体価格は1枚あたり7千~1万5千円ほど。施工規模次第では1週間程度で施工可能です。


国・自治体の補助金制度を要チェック

高断熱化を進めるうえでは補助金も活用しましょう。断熱リフォームに関する補助金制度を独自に用意している自治体もあるため、施工検討の際は必ず確認を。補助内容は自治体によって異なりますが、東京都では高断熱窓などへの改修費用の1/3を、大阪府大阪市では断熱等級4への引き上げで費用の2/5を補助してもらえるなど、ある程度の負担軽減が期待できます。

また、国も省エネリフォームに対する大型補助金制度「住宅省エネ2024キャンペーン」を実施しています。工事内容にあわせて、下表の4事業から補助金が支払われる仕組みですが、それぞれ個別に設定された事業予算がなくなり次第終了となるため、利用する場合は早めに業者の選定・工事の発注を行ないましょう。