9月1日は防災の日。今年は能登半島地震を皮切りに、豊後水道や台湾でも大地震が発生し、災害への備えを改めて考えさせられる一年となっています。ところで、災害対策には避難所の確認や非常食等の備蓄だけでなく、不動産に関する法的な手続きも重要であることはご存じでしょうか。今年4月から義務化された「相続登記」は、地域の防災力向上にもつながる大事な手続きのひとつでもあるのです。

東日本大震災で登記未了問題が表面化

そもそも相続登記とは、不動産の権利者が亡くなった際に、その名義を相続人に変更する手続きのことです。当たり前に実施されていそうで、実はこれまで義務でなかったこともあり、登記未了の不動産は少なくありません。特に郊外や山間部では、共有相続されたものの登記が行なわれず、活用もされないまま数十年過ぎてしまった、という不動産が散見されます。

相続登記が行なわれないまま長期間経過すると、不動産の権利者が分からなくなる、本来は数人だった法定相続人が数十人に膨れ上がる、といった事態が生じます。これが問題として表面化したのが、2011年に発生した東日本大震災です。実はこの復興事業は、相続登記のされていない不動産が多すぎる、という思わぬ理由で難航しました。そしてその事実が、今回の相続登記義務化のきっかけともなったのです。

復興の現場では要件緩和の特例措置も

倒壊した危険な建造物の撤去や、状況に応じた用地取得を行政が行なう場合、その手続きには不動産所有者全員の同意書と印鑑証明の提出が必要となります。しかし、相続登記がされていない不動産は、

  • 登記上の所有者が既に亡くなっている
  • 法定相続人が数十人おり全員の同意を取ることが不可能

といった状況になっていることが多く、結果として瓦礫の撤去等の復興作業を遅延させる原因に。東日本大震災における岩手県の例では、復興事業として用地取得の検討された1万3千の不動産のうち約4千件が、相続登記未了等の理由で権利関係の調整を要する土地であったといいます。

そして、同様の事態は今年の能登半島地震でも発生しています。6月24日時点における石川県内の公費解体(行政による建造物の解体)の完了率は、県の想定する解体数に対してわずか4%。

登記未了が難航理由の全てではないとはいえ、やはり同意書等のハードルは高く、所有者全員の同意がそろわなくても「建物の滅失を登記する」「『申請者が責任を持って対応する』との宣誓書を提出する」等によって解体申請を可能とする要件緩和措置もとられているほどです。

登記で地域の防災力向上に貢献

相続登記の義務化には、このような登記未了不動産による混乱を減らし、スムーズな復興活動を可能とする効果も期待されています。義務化にあたって、相続人には不動産を相続によって取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行なう義務が課されましたが、これは過去に相続した不動産も対象で、今年の3月31日以前に相続した不動産については2027年3月31日までに登記をする必要があり、正当な理由なく相続登記を怠った場合には10万円以下の過料が科されます。

相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費用が5,000円程度、登録免許税が固定資産税評価額の0.4%(※条件により税率変動)、手続き全てを司法書士に依頼した場合は10~15万円程度の報酬の支払いが必要となります。それなりに大きな出費ですが、罰金があることや災害時に地域の復興を妨げてしまう可能性を考えれば、決して高くない金額でしょう。

また、そもそも不動産の「共有」の状態を解消しておくことも、将来の災害対策および相続対策に有効です。思い当たる不動産がある場合は、この機会に相続登記の実施や権利関係の整理を検討してみましょう。