推定マグニチュード7.9、死者・行方不明者あわせて10万人超。1923年9月1日に発生した関東大震災から、今年で100年を迎えます。数百年に一度規模の大地震もいつ、どこで起きてもおかしくない状況です。賃貸経営者にできる地震への備え、対策のポイントを把握しておきましょう。
建物に瑕疵があれば所有者への責任追及も
いざ大地震が発生した場合、賃貸経営者には建物や賃料収入を失う以上の大きなリスクがあります。建物等の倒壊で入居者や通行人などに損害があった場合、その原因が「地震=自然災害」であれば責任は誰のもとにも発生しませんが、自然災害ではなく“建物の瑕疵”が原因となれば、賃貸経営者がその責任を問われる可能性もあるからです。
民法第717条には「建物の瑕疵によって他人に損害が生じた際はその占有者が、占有者が十分な注意・管理をしていた際はその所有者が損害を賠償しなければならない」という旨の、いわゆる「工作物責任」が定められています。つまり、建物に“耐震性不足”等の瑕疵があった際は、必要な安全管理を怠った建物所有者が損害賠償責任を負うということです。
事実、1995年に発生した阪神淡路大震災では、建物の瑕疵が入居者死亡の原因のひとつになったとして、倒壊した賃貸マンションの所有者に総額1億円を超える損害賠償が命じられています。たとえ「地震」という自然災害による被害でも、またその建物の瑕疵が他者のつくったものだとしても、建物の問題によって被害が生じたならば、賃貸経営者は「建物所有者」という理由で責任を問われることになり得るのです。
耐震診断で物件の耐震性を把握する
そうなると、建物所有者として第一に行なうべきは、建物の瑕疵の発見とその改善です。特に地震対策においては、「耐震診断」による耐震性の確認が最初の一歩。築年数の古い物件ほど診断の必要性は高まりますが、とりわけ1981年5月31日以前に建築確認がされている「旧耐震基準」の建物は要注意です。既に築年数が40年を超えているうえに、旧耐震基準は震度5強を超える揺れについては想定外。つまり二重の理由から、旧耐震基準の建物は耐震性の確認が急がれるのです。
耐震診断の費用は、建物規模や診断方法等で幅がありますが、木造アパートなら1棟あたり20~50万円程度、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の規模の大きい建物は、延べ床1㎡あたり1,500~3,000円程度が相場といわれます。一部の自治体では賃貸住宅にも使える耐震診断助成金を用意しているので、診断前にチェックしてみることをお勧めします。
ただし、ひとたび本格的な耐震診断をすると、その診断結果は賃貸借契約時の「重要事項説明」で明示しなければなりません。契約前に入居者に説明することになるため、入居者募集への影響を加味したうえでの実施判断が求められます。
耐震化工事には助成金あり。建て替えも前向きに検討を
診断によって耐震性の不足が認められた場合には、耐震化工事の早期実施を検討しましょう。費用は決して安くありませんが、工事をすれば減災はもちろん、入居率の改善、物件の売却価格上昇といった資産価値アップのメリットも期待できます。
耐震改修も耐震診断と同様、自治体によっては賃貸住宅向けの助成金が用意されています。また、改修費用の一部を所得税から控除できる特例措置(本年12月31日まで)もあり、実施の際には忘れずに活用したいものです。
とはいえ、築40年超の旧耐震物件をあと何年運用するのか、という経営判断も必要です。耐震化工事をしても採算が取れないようであれば、立退き料等を用意してでも「建て替え」という選択を。大地震による入居者死傷、高額な賠償責任を負うなどのリスクを低減し、早々に健全な経営をスタートすることも解決策のひとつです。
適切なメンテナンス・運用の工夫で安心をプラス
地震によるリスクを低減するには、次のようなポイントを絞った施策も有効です。
外壁ほか落下のおそれのある部位の補修
地震で最も発生しやすいのが、揺れを起因とした建物の一部の落下です。外壁や外階段、庇、看板など、重量のあるものが¥落下すれば被害は甚大。タイルの浮きや金具の腐食、外壁の亀裂等を見つけたら、小まめな修繕を心がけ、事故の発生を未然に防ぎましょう。
老朽ブロック塀は撤去か補強
建物だけでなく、ブロック塀も1981年に建築基準が厳格化されています。現行制度では、鉄筋入りの補強コンクリートブロック塀でも高さ2.2mまで、鉄筋なしでは1.2mまでしか認められておらず、一定間隔で控え壁の設置も義務づけられています。高く積み過ぎていたり、ひび割れ・傾きが見られるブロック塀は早急に撤去・補強の対策を。道路に面した塀であれば、多くの自治体が補助金を用意しています。
お役立ち防災グッズを入居者にプレゼント
入居者に防災グッズをプレゼントすれば、各自の防災意識の高まりや入居者満足度の向上も期待できます。また、募集・契約時に「家具転倒防止のために壁にネジ穴を開けてもいい物件」と伝え、貸主側から防災行動を促すのも一案です。
入居者プレゼントの例
食料品(アルファ米、レトルト食品、乾パン、チョコ)
飲料水 ・懐中電灯 ・簡易トイレ ・使い捨てカイロ
防災用ヘルメット ・救急用品 ・消火器、消火グッズ ほか
被災後のリスクヘッジは地震保険で
地震対策をするうえで、賃貸経営者として忘れてはならないのが地震保険への加入です。「地震・噴火・津波」を原因とした建物等の損害は火災保険の対象とならず、地震保険でしか補償されません。
補償の上限は火災保険の保険金額の30~50%で、建物は5000万円、家財は1000万円まで。満額補償ではないものの、被災後の生活再建や借入金の返済を考えれば、保険の果たす役割は極めて重大です。自然災害の増加で保険料は上昇傾向なので、「関東大震災100年」の機会に早めの加入・見直しを検討しましょう。