ここ数年、加熱の一途を辿っているペットブーム。一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、2022年に飼育が開始された犬・猫の合計数は85万8千頭を数えます。ちなみに、日本の2022年の出生数は77万747人(厚労省発表・概数)。驚くべきことに、今の日本は人間よりもペットのほうが増えている状況なのです。
これだけペットの飼育が一般化すれば、当然に増加するのが「ペットを飼える部屋」のニーズです。ペット可物件は、究極、契約条文から「ペット飼育の禁止」の記載を取り除くだけでつくれますが、安易なペット可への変更には思わぬリスクも。注意点をまとめました。
ペット可は「お部屋のガード」から
第一の注意点は、ペット飼育を許可することで加速する「部屋の傷み」の問題です。ペット可で早期に空室が埋まっても、ペットのつけた傷・汚れ・においによって空室損以上に不動産価値が下がったり、修繕費が高くついたのでは元も子もありません。契約条件の変更と物理的なガードの両面から部屋を守る必要があります。
契約でガード
・原状回復に備え、敷金を通常より多く預かる
・ペットが汚損・破損した建具等の修繕責任の所在を明確化
・飼育頭数・種類・サイズ等の制限 ほか
物理的にガード
・傷や汚れに強いペット用クロス(壁紙)の採用
・拭き掃除が容易な床材の採用 ほか
こうした防衛策は賃貸経営者のリスク低減もさることながら、ペット可物件を借りる側にもメリットを提供します。噛む・引っかく・吐く・粗相する…、いくらしつけを徹底しても、ペットの行動は完全にはコントロールできません。なればこそ、飼い主も修繕費の負担が明らかで、「傷がつきにくい」「掃除がしやすい」といった工夫のされた部屋のほうが安心して契約できるのです。
ペットと飼い主、双方の快適さに着目
募集の間口が広がり集客力アップが期待できる「ペット可」戦略ですが、さらなる訴求力向上や賃料アップを目指すなら、意識すべきはペットや飼い主の“快適さ”です。犬部屋・猫部屋など、ターゲットとなるペットを明確にすると、打つべき快適性向上策も定まりやすくなります。
犬の飼育に快適な部屋
・滑りにくい床材/床コーティングの採用
・足洗い場の設置(共用部など)
・リードフックの設置(共用部や玄関など) ほか
猫の飼育に快適な部屋
・防汚性の高い床の採用(嘔吐・粗相対策)
・自由に出入り可能なペットドア設置
・壁にキャットウォークを設置
・壁に爪とぎ対策シートを施工 ほか
ターゲットを絞らない場合でも“快適さ”は追求できます。たとえば、エアコンの交換。実は、集合住宅でペットを飼う人の多くが部屋のエアコン性能を気にしています。仕事で日中不在の方は、室内に残した愛犬・愛猫を暑さ寒さから守るために、エアコンは一日中つけっぱなし。そのため節電性能が高い・スマホから遠隔操作できる、といったエアコンは飼い主にとって大きな魅力です。
同様に、快適性向上策として“窓”に手を入れるのも有効です。後づけできる「内窓」を設置して二重窓とすれば、気密性・断熱性が向上して空調効果がアップするだけでなく、鳴き声等も外に漏れにくくなり、暮らしの安心度が高まります。
ペット可への途中変更は入念な事前準備を
多くのメリットが期待できるペット可物件ですが、ペット“不可”の物件を途中変更する際には「既存入居者」に十分な配慮が必要です。入居者の中には「アレルギーや音の問題からペット不可物件を契約した」という方もいるかもしれません。こうした入居者を無視した変更は、トラブルへと発展するケースが多く見られます。
具体的には、ペット可に変更する旨の通知や掲示を数ヶ月の時間的猶予を用意して行なったり、ペット可への変更に対するアンケートを事前に実施する等によって“反対派”との衝突を回避します。ペット可物件をつくる際は、ペットを飼う人も飼わない人も、どちらも快適に過ごせるかを念頭に置いたうえで、入念に事前準備を行ないましょう。