今年1月に東京都狛江市で起きた強盗殺人事件をきっかけに、「ルフィ」らを指示役とした全国規模の闇バイト強盗が世間を騒がせています。幸い事件の容疑者らは続々と逮捕されていますが、油断は禁物。加えて、新生活の始まる春は、慣れない環境で入居者が窃盗被害に遭いやすい時期でもあります。所有物件の防犯対策は万全でしょうか?

窃盗・強盗は1日43件。「事故物件化」リスクも

警察庁の発表によれば、住宅を対象とする侵入窃盗・侵入強盗は、2022年の1年間で1万5821件(うち侵入強盗は129件)発生しました。防犯設備の普及や高機能化、検挙者の圧倒的多数を占める若者が減少している等の社会的背景もあり、事件数はゆるやかな減少傾向にあるとはいえ、一日あたり約43件の窃盗・強盗被害が発生している計算になります。さらに言えば、件数全体に対して「強盗」の占める割合は上昇傾向。コロナ禍で留守宅を狙う犯罪が減る一方、住人が窃盗犯と鉢合わせて重大事件化してしまうリスクも高まっているようです。

窃盗にせよ強盗にせよ、一度でも事件が起きてしまうと賃貸住宅での影響は深刻です。不安を募らせた入居者の早期退去だけでなく、「事件のあった建物」としてうわさが広まることも考えられます。万一、強盗殺人のような凶悪事件が発生してしまえば、“心理的瑕疵”の告知が必要となり、賃貸経営には大きなダメージが及ぶことに。窃盗は入居者の家財に被害が出るだけ、と他人事にできるような問題ではないのです。

窃盗犯を入らせない・寄せつけない対策を

以上のような窃盗被害のリスクを考えると、賃貸住宅の防犯対策ではまず「窃盗犯を入らせない・寄せつけない」ことが大切になります。対策のヒントを探るべく、警察庁の犯罪統計を調べてみましょう。

統計を見てみると、侵入経路では戸建て住宅で「窓」、共同住宅では「玄関」からの侵入が1位に。一方の侵入手口では、戸建て住宅・共同住宅ともに鍵の「無締まり」(無施錠)が圧倒的に多く、次いで「ガラス破り」「合鍵」という結果でした。コストをかけるなら効果を考えて、玄関と窓を最優先で固める必要がありそうです。

「玄関」対策はカギの工夫から

玄関の防犯対策で、まず解決したいのは入居者による鍵の無締まり問題です。「入居者の意識の問題」でもある以上、注意喚起文を掲示板に貼る等の施策が基本となりますが、各玄関ドアのカギを思い切ってオートロック機能つきに変更してしまえば、無締まり対策は解決します。近年人気のスマートロック(スマートフォン連動のキーレス錠)なら安価に後づけできるうえ、導入物件もまだ少ないことから、競合物件との差別化にも役立ちます。

「合鍵」を作製しての侵入は、入居者の友人知人が犯人であることが大半です。しかし、第三者がSNS等に投稿された写真から鍵番号を割り出して合鍵を作製し、犯行に及ぶというケースもあるため、複製困難なキーレス錠やディンプルキーの導入も検討してみてください。

「窓」対策は時間稼ぎが第一

窓の防犯対策では、犯人が侵入するまでの時間をどれだけ長引かせられるかがポイントです。警察庁によれば、窃盗犯は侵入に時間がかかるほど諦める確率が高くなり、5分以上で70%、10分以上で90%が諦めるという調査結果も。

それを踏まえて検討したいのが、「ガラス破り」に効果的な防犯フィルムの導入です。防犯性に優れたCPマーク認定品の商品であれば、ハンマー等で何度強打しても簡単には割れないうえ、破壊時に大きな音も出て人目につきやすくなります。サッシに補助錠を後付けすれば、窓からの侵入は一層難しくなるでしょう。

共用部の防犯対策で物件を格上げ

もし予算が許すなら、専有部だけでなく共用部の防犯も強化できると、より安心感が高まります。中でも費用対効果に優れるのが共用エントランスのオートロック。不審者の侵入リスクを軽減できるだけでなく、物件のイメージアップにつながるほか、人気設備のため空室対策としても優秀です。

また、防犯カメラも検討したい設備のひとつです。複数箇所の設置となれば運用コストも気になりますが、Wi-Fi環境を利用したネットワークカメラの採用や、威嚇効果による防犯を狙ったダミーカメラの併用などで低コスト化も可能。オートロックと同じく、物件のグレードアップ効果も期待できます。

そのほか、センサーライトや照明を増設して敷地内の暗がりを減らしたり、侵入経路となりそうな箇所に防犯砂利を敷いたりといった方法も、人目や音を嫌う窃盗犯には効果的。窓周辺に侵入の足場になる物を置かない、植栽を剪定し見通しを良くするといった対策もオススメです。

賃貸住宅を犯罪の温床にしない対策を!

賃貸住宅では空き巣だけでなく、長期空室が犯罪組織の物品受け渡しに利用されたり、賃借人によって特殊詐欺のアジトや風俗店の違法営業、麻薬栽培などに利用されたりといった事態も起こり得ます。万が一に備えて火災保険の「防犯対策費用特約」等を契約する手もありますが、事件は起きないことが一番。賃貸経営が決して犯罪と無縁ではないことを忘れず、常日頃から目を光らせ、犯罪者を寄せつけない賃貸経営を目指しましょう。