猛暑が当たり前となった日本の夏。昨夏も全国で40度超えのニュースが相次ぎましたが、今年は昨年を上回る酷暑が予想されています。世界的に温暖化が急速に進む中、今年2月には地球を一時的に冷やす効果のある「ラニーニャ現象」が終息。今年の夏は、日本においても例年より高温・多雨となるリスクが高まっています。
熱中症は住宅内発症が最多 事故物件化リスクも
酷暑予想となると、賃貸経営者として今から進めておきたいのが入居者の熱中症対策です。熱中症と聞くと、屋外の強い日差しの中で突然フラリ…、という印象を持たれがちですが、消防庁の発表によれば、2022年に救急搬送された2万8064人の熱中症患者のうち、約4割が「住宅内」で発症。実は屋外発症者と大差ない数の方が室内で倒れているのです。
熱中症を発症した入居者が、そのまま室内で亡くなってしまうことも考えられる以上、賃貸経営者として暑さ対策をおろそかにはできません。事故物件化を避けるためにも、熱中症リスクを左右する「エアコン」の設置状況は、本格的な夏を迎える前にしっかり確認しておきたいものです。
夏の必需品「エアコン」でリスクヘッジ
今やエアコンは全国的に“賃貸住宅にあって当たり前”の人気設備。不動産ポータルサイト各社の調査でも、「エアコン付き」はトップ5に入る部屋探しの絶対条件です。もちろん、設置の必要度は気候によって変わりますが、涼しいとされるエリアでもエアコンの設置率はじわじわと増加中。それだけエアコンは必需品になっているわけですが、ここにもやはり厳しさを増す日本の夏の暑さ・熱中症リスクの影響が垣間見えます。
例えば、2022年の熱中症救急搬送数を都道府県別に見てみると、人口の多い東京が1位である一方、10万人あたりの搬送数は、涼しいはずの北海道や東北地方の各県でも東京と同等の数字となります。それどころか北日本を猛暑が襲った2021年は、東京以北の全ての地域が10万人あたりの搬送数で東京の数字を超える結果に。寒冷地域であってもエアコン不要とは限らない…、それが昨今の日本の夏なのです。
エアコンの設置費用は、シングル向けの6畳用で6~10万円程度から(工事費込み)。決して安くはないものの、空室対策と事故物件化対策を兼ねると考えれば、十分に検討の余地のある金額です。特に単身高齢者が入居する可能性のある部屋では、エアコンは最優先で設置すべき設備のひとつでしょう。
設置後のリスク低減は「シーズン前の試運転」で
ただし、エアコンさえ設置すれば安心、というわけではありません。エアコンも機械ですから、劣化もすれば故障もします。夏のピーク時に壊れたとなれば、修理業者も混雑しているため復旧が長期化することは必至。耐え難い暑さに入居者感情も悪化しやすくなり、「事故」そのもののリスクも高まってしまいます。
これに対する有効策は、夏本番までにエアコンの試運転を行ない、早期に不調を見つけてトラブルの芽を摘んでおくこと。近年はコロナ禍に伴う半導体不足もあり、国や企業によるエアコン早期点検の呼びかけも目立つようになりました。暑さが本格化してくる6月中旬までに、通知文などで入居者に試運転を促しておきましょう。
試運転の基本は、最低温度(16℃)に設定したうえで10分間の冷房運転。冷風が出ているか、室内機のエラーランプが点滅していないか、運転音やニオイに異常がないかを確認します。不調が見つかったエアコンが10年選手の場合には、このタイミングで交換を。製造から10年が経った製品はメーカーで部品が確保されておらず、修理に時間や費用が多くかかるケースがあります。
高機能エアコンで競合物件との差別化も
もしエアコンの新規設置・交換を行なう場合には、高機能エアコンを取り入れて競合物件との差別化を図るのも手です。日本人の生活必需品だからこそ、便利機能が入居者募集に一役買ってくれるかもしれません。
部屋干しモードつき
その名の通り、室内で洗濯物を効率的に乾かせるよう温度や湿度を調節する機能。室内物干しと併せて設置すれば、近年高まる室内干しニーズに応える部屋に。部屋干しのデメリットである生乾きのにおいを低減できる機種も登場。
空気清浄機能
コロナ対策としてのブームは一段落したものの、テレワーク等による在宅時間の増加からニーズは健在。高性能フィルターやイオン、静電気などの力で、空気中の埃や花粉、PM2.5、悪臭などを除去します。高機能エアコンの中では割安な点も魅力。
無線LAN内蔵
Wi-Fi環境を用意すれば、スマートフォン等からいつでも操作が可能に。学習AIによる温度の自動調整や室内空気の汚れチェック、消し忘れの通知、電気代の管理など、エアコンの枠を超えた便利な使い方ができる機種も。
そのほか入居者の注目を集める機能といえば、省エネ性能。電気代の高騰を受けて、今夏は家計にやさしいエアコンが例年以上に人気となるかもしれません。
ただ心配なのが、エアコンの使用を「もったいないから」と控えてしまう人の増加が予想される点です。せっかくエアコンで熱中症対策をしても、使ってもらえなかったのでは意味がありません。場合によっては賃貸経営者自ら「電気代の一部キャッシュバックキャンペーン」を実施するなどの方法で、入居者のエアコン利用を促すことも必要かもしれませんね。